AI技術を用いて巨大地震の被害を抑えることはできるのか?

使ってみる

令和5年8月8日の16時頃に九州で震度6弱の地震が発生しました。文部科学省地震調査委員会によると、南海トラフ巨大地震が今後の30年以内に発生する確率は80%と言われています。また、同地震による津波、建物の倒壊、火災などで全国の死者は32万人に達すると想定されていますが、何十年もずっと来ると言われていた南海トラフ地震が起きるのはもうすぐそこまで来ているのかもしれません。そんな状況を打破すべく現在のAIの技術は災害対策に活躍しており、AIの技術の発展が巨大地震の被害を抑える立役者となる期待が持たれています。当記事ではそんな災害の被害を抑えるために用いられるAIの技術を紹介していきます。

AIの地震予測の仕組み

ビッグデータの活用

ICTの劇的な進化によってビッグデータの収集・分析が容易になりました。それによってAIは地震の予測においてビッグデータの情報処理能力が上がっていき、日本の地震科学探査機構(JESEA)では、全国1300ヶ所の電子基準点から得られた12年間のデータをAIに入力し、最新のデータと比較することで地表の異常変動を検出しています。

電子基準点の分布 (引用:第3部応用編 電子基準点-1)

異常現象の分析

地震はプレートが地下深くで地殻変動して起きるものであります。つまり地震の発生には地殻の動きが伴っており、地殻変動が浅ければそれだけ被害が大きくなる傾向にあります。さらに地殻が上下左右、斜めなど三次元的に動くほど大地震になることが最近の研究で判明しました。また震源からはインフラサウンドや電磁波、放射能ガス、水蒸気。高熱が発せられることも解明されており、AIはこのような地震の前兆とされるいくつかの異常現象を分析して予測を行います。

異常検知の流れ

1.データの相関性を観測する

先ほどの電子基準点などから過去にとられた大量の観測データを集めます。

2.規則性を見つける

1.で得られたデータから相関を計算して規則性を発見する。これによって規則性を将来に伸ばすことによって、未来を予測することが可能です。

3.異常検知

規則性から外れる値を発見することによって異常を検知することが出来ます。

(画像の引用 : 災害対策にビッグデータは使えるのか – 総務省)

MEGA地震予測

「MEGA地震予測」は、地震科学探査機構(JESEA)が提供する地震予測アプリで、村井俊治東京大学名誉教授によって開発されました。このアプリは、人工衛星からのデータを利用し、地震の前兆現象を捉えて解析し、その情報をスマートフォンアプリで配信しています。

地震予測アプリ「MEGA地震予測」 - JESEA|地震の前兆を捉える
地震を予測するJESEAの「MEGA地震予測」は、測量工学の権威である村井俊治東京大学名誉教授によって開発されたおすすめの地震予知アプリです。有料となりますが最初の1ヶ月間は無料でお試し可能です。地震の予測と早期対応にぜひお役立てください。

MEGA地震予測では以下のような機能が備わっています。

  1. 人工衛星による観測:
    • 人工衛星を利用して地表の動きをリアルタイムで観測し、異常変動を検知します。これにより、地震の前兆現象を捉えることが可能です
  2. 多様な前兆現象の解析:
    • 10種類以上の前兆現象を総合的に解析します。これには、地殻の異常変動、ダイナミックAI解析、ミニプレート解析、搬送波位相解析、気温の異常、インフラサウンドの擾乱、太陽活動の変化などが含まれます
  3. ピンポイント予測:
    • 特定の場所でマグニチュード6以上の地震が1か月以内に発生する可能性を予測する「ピンポイント予測」を行います。
  4. 動画による解説サービス:
    • 地震予測の情報を動画でわかりやすく解説するサービスを提供しています。これにより、ユーザーは最新の地震予測情報を視覚的に理解することができます
  5. 地殻変動のビジュアル化:
    • 日本を12の地域に分けて、それぞれの地殻変動の様子を毎週詳しく説明します。これにより、どこにひずみが溜まっているのかがわかります
  6. アプリによる情報配信:
    • スマートフォンアプリを通じて、地震予測情報を配信しています。アプリでは、地域ごとの地震警戒レベルをチェックしたり、予測の基となる前兆現象の詳細を閲覧することができます

このようにMEGA地震予測は、過去に起きた災害などの膨大なデータからAI技術を駆使して地震予測の精度を向上させ、ユーザーに対して迅速かつ具体的な防災情報を提供しています。

主な実績

・2024年1月1日に発生した石川県能登半島地震の震度5強の地震を予測し、的中させた実績があります。

・ピンポイント予測の的中率は約70%に達しており、今後もAIの学習によって精度向上が期待されています。

SNSの情報処理に利用されるAI

自然災害の発生時、現地の被害情報を知り、いち早く救助へ駆けつけるにはSNSの情報を把握することは避けて通れない、しかしSNSの情報はその膨大な情報量や不特定多数から発信される情報であるがゆえに、信憑性などの問題を抱えています。そこに用いられるAIの災害状況の把握技術について解説します。

SNS情報の課題点

情報の膨大化 : SNS情報に災害現場において重要視される質の高い情報が含まれているが、膨大な情報量の中から,抽出することは極めて困難であります。

デマや誇張記事 : の拡散最近では「アテンションエコノミー」によって情報の質よりも注目されることが優先されてデマや誇張が拡散されやすくなっています。またAI技術の発展により見分けのつきにくい画像や動画、音声がデマとして使われているため、このような誤情報が拡散されると正確な情報が埋もれコンらを招く危険性があるのです。

2022年9月に台風15号によって起きた静岡県での豪雨が発生したときにTwitter(現 X)で投稿された画像生成AIを用いられたフェイク画像の拡散

高度自然言語処理プラットフォーム

人間が手動で情報を入手するには時間と労力がかかり、またその情報の膨大さから短時間で整理することは困難であります。そのためSNSのデータを高度自然プラットフォーム(NLPPF)で解析をして何がどこで誰がいつ発信した情報なのかを構造化階層化させて正確に把握させます。つまり人間に代わってAIが自動的に情報を処理することで災害対策本部が人命救助や被災者支援を円滑に行うことを可能にしているのです。

NLPPFの構築

AIによる情報処理では以下の手順に沿って情報の正確性を検証しています。

  1. 場所を特定
    自然言語情報に含まれる市町村名やランドマーク名称などから場所、緯度・経度を特定
  2. 内容を特定し、カテゴリ分け
    自然言語情報が示す意味を解析し、内容に応じてカテゴリに分類。(現時点では防災、保健衛生等のユースケースに対応)
  3. 言葉の揺らぎを吸収
    学習データや辞書データにより、地名や単語の揺らぎを吸収する。
  4. 情報の信頼性を解析
    自然言語情報が推量、予報、矛盾等を含むかどうかを判別する。(デマの可能性を警告)
  5. 質問応答で必要な情報を抽出
    対話形式で必要な情報を抽出する。

(画像の引用 : 防災科研(NIED))

NLPPFとSIP4Dの連携

現在、SIP4D(基盤的防災情報流通ネットワーク)とNLPPFの連携が進められています。この連携は、SIP4Dで共有される災害情報とSNS等で発信される情報を融合させる機能を持ちます

SIP4D : SIP4Dは、災害対応に必要な情報を多様な情報源から収集し、利用しやすい形式に変換して迅速に配信することを目的とした防災情報の相互流通を担う基盤的ネットワークシステムです。このシステムは、災害時における情報生成・共有技術の一環として開発され、多数の府省庁や関係機関の間での横断的な情報共有を実現するために設計されています。

SIP4D情報公開サイト | 基盤的防災情報流通ネットワーク

NLPPFとの連携 : NLPPFとの連携により、SIP4DはSNSなどからの情報を含めた多様な情報を統合し、より的確な災害対応を支援することが可能となります。この技術の開発と利活用が進められており、災害時の状況認識の統一に寄与しています。